望みが絶えること。
それは、春でした。
顔馴染みは誰もいなくて、それは3年前に味わった感覚。
緊張と不安、それを上回るドキドキ感。
また、3年間が始まる。ここで3年を過ごす。
そう思いながら、名前の順番で数字のついた席についた。
母親から聞いていた。
中学の同級生の、友達が、同じ高校に来ると。
まあ、その同級生とはそこまで仲良くないし。
そんなのに期待するほど、友達に困らない。
ただ、その同級生は面白い子だった。そして、ひたすらに頭がよかった。
そんな子の友達なら、きっといい子だろうという予測はできた。
頭の片隅でしかなかった。
片隅でしかなかったのに、
その子は一週間後に私の脳内の8割を占めることになる。
第一印象は、変な奴だった。変わった子。やばい人。
ただ、ひたすらに面白かった。あまりに突飛で奇抜で、奇天烈だった。
ちなみに私も面白い。奇抜じゃないけど、面白かった。
例えるなら、その子はマセキだし、私は漫才協会だった。
初めましての時から、この子と一緒にいたら間違いないと確信した。
それから1年間毎日お昼ご飯を食べて、移動教室は必ず共にした。
仲間も増えた。5人で行動した。
高校生らしく、イメージカラーなんてつけたりして。
今となってはめちゃくちゃ大事な友達も、その子が引き合わせてくれた。
人数は変わっても、人は変わっても、私とその子だけは一緒にいた。
ああ、それこそ、2人でいれば最強だとすら思っていた。
一緒にいたくて、その子の学校に行く時間に合わせた。
誰もいない朝の学校、その子がピアノを弾いて、私が歌って。
このまま誰も来なきゃいい、とすら思っていた。
気付けば、他の友達とは異なる感情を抱いていた。
友情なんかじゃ足りないし、
親友というには疾しいし、
恋愛というより高尚な。
特別な気持ちを、いつのまにか抱いていた。その子に。
ただ、言わなかった。
好きの一言とも言ったことがない。
他の友達には散々言った。
手も繋いだし、ハグもした。
その子も、他の友達にはしてた。(もちろん妬いた)
その子とは、少しもしなかった。お互い、一切しなかった。
それでも、誰が見ても、私たち2人は学校の誰よりも仲が良かった。
嘘をついた。
仲が良かったかはわからない。
私は、私だけは、間違いなく、その子を世界一愛してた。
受験の時、病んだその子が言った。
「もうしにて〜な」って。
だから、「じゃあ一緒にしぬか」って返した。
その言葉にひとつの嘘もなかった。
その子がいなくなるなら、私もいなくなろうと本気で思った。
で、結局その後は、遺書を書いて、 それが書籍化して、
映画化したらどうしようって話で盛り上がった。
死んだ後に有名になるなんて、偉人じゃん!って笑った。
日が暮れたバスの中、暖房が暑くて顔を真っ赤にしながら、
大騒ぎしてた私たちは、間違いなく迷惑客で、
世界中で、一番人生を謳歌してた。
2年の時に、クラスが分かれた。3年も違った。
大学なんて、県すら変わった。
それでも初めて出会って、7年間、この想いを途切れさせたことはなかった。
高校の時、好きな男の子だっていた。
大学の時も、まあ、一応いた。
それでも、その子だけが特別だった。
その子の位置は、席は、誰も座れなかった。
3ヶ月に1回、ラインがくればそれだけで良かった。
たまに会えたら幸せだった。
都会に行って、見た目が変わったあの子。付き合う友達の種類が変わったあの子。
それでも好きだった。
会えなくても、他の友達と一緒にいる写真だけで妬けた。
でも、もう、こんな感情は抱けない。
だって迷惑だから。片想いが冗談じゃなくなるから。
恋愛感情じゃないって言葉を、疑って、悲しむ人がいるかもしれないから。
それは、その子が世界で一番大切にしている人だから。
知らないけど。
知りたくないから。
嘘みたいに綺麗な海を見ながら黄昏れた沖縄も、
馬鹿みたいにはしゃいだディズニーも、
もう行けないのかな。
いや、いけるだろ。
私はただの友達なんだから。
友達。彼女にとって数十人いる中の、ひとり。
きっとしばらくは、その事実だけ抱えて眠る。